ライラックと藤の花が満開となり、
季節は百花繚乱の春から初夏に移りかわろうとしています。やっと豪雪から解放されたと思ったら、早くも夏至ですね。「6月の日暮はお金持ちの親戚」に例えられるように、なかなか暮れそうで暮れないなどと言われ、日照が最も長い季節です。1年で最も爽やかな季節ですので、外の景色を楽しみながら楽しく過ごしたいですね。
5月末に日本東洋医学会の全国大会が札幌で開催されました。私は準備委員の1人として、初学者への教育講演など、少しだけ関わらせていただきました。折しもコロナ禍により前年に続きほとんどの発表がオンラインになってしまいました。しかしいくつかの招待公演は人数限定で開催され、会場で脳科学者の茂木健一郎さんの講演を聞くことができました。茂木さんは脳科学だけでなく、もともと物理学を修了されており、多くの示唆に富んだお話をされました。なかでも、EBM(根拠に基づく医療)は必要だ、としながらも、あらゆる事象には多くの変数(パラメーター)があり、たった1つの根拠に依存するという考え方はいささか単純すぎないか、という問いかけをされました。物理学では、アメリカで起きた竜巻の始まりは、アマゾンの蝶の羽ばたきから始まっているかもしれない、という仮説を大真面目に議論するそうです。その後、様々な変数(パラメーター)の影響を受けたのちに、アメリカで巨大な竜巻に成長する、というのです。これは大変な複雑系の話となり、世界最高峰のスーパーコンピューターを持ってしても正確に計算することは不可能でしょう。なぜなら、現代の科学では解明できない、多くの事柄が関与しているに違いないからです。茂木さんは、これを「暗闇に落とした鍵」と表現されました。明るいところに落とした鍵は容易に見つけることができますが、暗闇に落とした鍵はなかなか見付けることはできません。現代科学は、既に解明されている根拠を元に証明している、つまり明るいところに落とした鍵を拾っているに過ぎない。だからそれは大した知性ではない、というのです。
私は、これを聞いて、漢方医学の役割についてはっきりと自覚することができました。漢方医学は、科学ではなく、経験に基づいた経験医学です。よって科学的な根拠を見つけることはできませんが、人間全体を見た上で、正常からどちらの方向にどれだけ偏っているか、を見つけることで病気を治癒に導くことができます。つまり暗闇の中でおおよその方向と距離がわかり、鍵を拾うことができるのです。現代医学は、診断がつかなかったり、診断がついても難病で治療法がなかったり、多くの科をまたがるような複雑な症状の治療が苦手です。漢方医学は、このような時に大きな助けになります。私は、これからも、暗闇に落とした鍵を毎日探したいと思います。
写真は、滝野すずらん公園のチューリップです。小人の目線で撮ると、チューリップの森のようですね。
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